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香苗が声を発することもできないほどに仰天していると、きっとサボりに来たのだろう、扉を開けた女性社員は二人の姿を見るなり、パチクリと目を開き、
「し、失礼しました」
と真っ赤にな顔で、そのまま走り去って行く。
彼女がいなくなったことを確認して、篠原はフーッと息をついた。
「良かった。これでスパイの密談だってことは、気付かれずに済んだな」
「…………」
そうか、スパイだって怪しまれないように、壁ドンしてカップルを装ったんだ。
って! 誰が、男女が二人きりでこんなところにいて、『スパイ同士の密談』だと思う人がいるのよ!
「いやぁ、しかし今のは危なかった。誤魔化せて良かった」
なっ、と同意を求めるように、歯をキラリと光らせて視線を合わせる篠原に、
「ぜ、全然良くないですよ!」
私のときめきを返せ!
と非常階段に香苗の裏返った声が響いた。
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