【1.二流作家は当然一流作家への夢を見る】

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「―――は……?打ち切り?」 東京都渋谷区のビル群に、地元名家のお偉いさんの資金提供により新設され、さらには新設から1ヶ月足らずで人気作家を輩出した出版社『スターノベルス』本社の10階、作家応接室には新人作家として1ヶ月も満たない俺こと『春日井 亜戯斗(かすがい あぎと)』はたった今、デビュー作の打ち切りを担当編集者から言い渡された。 高校一年の半分近くを自宅で過ごし、なおかつ出版社と自宅を行き来しながらの執筆活動に費やした俺の努力がこうして失われてしまったのだ。 しかし、当然納得がいくものではない。 明確な理由を提示してもらえない限り二つ返事での了承などできはしない。 俺は、若いながらも俺の他に二人の作家を受け持つ担当編集者へ詰め寄る。 「あの、打ち切りって言っても……その、訳を聞かせてもらえないと俺としては納得がいかないんですが。」 対して担当編集者である『麻戸 摩季南(あさと まきな)』さんは、顎に人差し指を当ててさも考えるような仕草をする。 見たところ、何やらいいたげではなさそうな様子である。 作品の売れ行き不振だけでは、このようにわざわざ理由も告げずということにはならないだろう。 視線で早く言え、と急かすと麻戸さんはようやく、諦めたように答えた。 「そうね、春日井君も不満に思うことはあるだろうけど、実のところ私のような一社員がどうこう言える問題ではなくなったの。」 「はい?……えっと、それって上の指示ってことですか?」 俺の驚き混じりの問いに麻戸さんは瞳を伏せ頷いた。
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