130人が本棚に入れています
本棚に追加
明かりを落とした部屋には荒い呼吸を繰り返す音ばかりが聞こえる。
自分の鼓動が激しいのはよくわかる。
何も身につけてもいないのに全身が暑い。
目を閉じて快感に酔いしれて、呼吸を整える。
気持ちよかった…。
大満足。
さて、と動き出そうとして、今、自分が何をしていたのか思い起こそうとした。
ベッドについた腕。
その間にいる女の姿。
当たり前のように裸で、まだ呼吸を荒くして目を閉じている。
小顔でぱっつん気味の前髪。
ベッドの上に広がる長い黒髪。
華奢というよりも子供のような小さな肩幅かもしれない。
腕も細く、手も小さいのに、胸の膨らみは目に見えるくらいはある。
言葉も思考も一瞬、なくした。
激しい運動をしたあとの鼓動は鎮まって、別の動悸がしてきた。
そろりそろりと女の上から起き上がって、そのへんに散らかした服を着ていく。
何もなかった。
そういうことにしておこう。
……中に出してしまった。
気のせいだ。
そういうことにしておこう。
だって俺はこの女の名前も知らない。
服を着ながら、ちらっと女のほうを見ると、ベッドに横になったまま、まだ酔っているかのような目で、ぼんやりと俺を見ていた。
相手は泥酔。
俺がしたことなんてよくわかっていないはずだ。
というか、俺、別にこの女、好みじゃない。
なんか重量級な雰囲気。
いや、体は小さいし、片腕で抱き上げられそうにも思うけど、そういう重さではなくて。
あと、小さすぎるのもあまり好きじゃない。
小柄より背が高めのナイスバディなお姉サマがいい。
女は何を言うでもなく目を閉じる。
ちゃんと服を着て、もう一度見たときにはのんきに眠っていた。
逃げよう。
それがいい。
一夜限りのつきあいだろ?みたいな話をするのも重くなりそうで嫌だ。
ぱっつんはオタクで恋愛やセックスに重そう。
だめだめ。
…できているかもしれないけど。
その確率は低い。
そう簡単に人間は妊娠したりしない。
大丈夫だ。
自分に言い聞かせて、俺はその部屋を出た。
ラブホテル。
入ったのも初めてだけど、一人で先に出ることがあるとも思っていなかった。
……ヤバい。
ヤらなきゃよかった。
そんな後悔をしてみても、たぶん遅い。
最初のコメントを投稿しよう!