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「パダン・トゥリンガ(トゥリンガ様)。」
男に呼ばれ俺は振り向いた。
「どうした。」
「今、あの建物に人影が入っていったような…」
俺は彼の視線の先にたたずむ廃屋を睨んだ。
日は完全に沈み、東の空より迫る濃紺の夜空が西の空にかろうじて残る光を喰らい尽くそうとしていた。
……夜が始まる……
俺は腰に提げた剣の重みを確かめながら一歩ずつ廃屋に近づいた。
後から部下の男が続き、そのさらに後ろからも俺の引き連れる兵たちが歩き出した。
久々に返り血を浴びることになりそうだな、と俺は顔をしかめた。
緊張で体が震えている。
命をやりとりする仕事にはだいぶ長いこと携わっているが、それでも毎回のように感じる不安、恐怖。
そいつらが俺の喉を締め付け、心拍数を上昇させていく。
果たして、こんな感覚に慣れることの出来る人はいるのだろうか。
しかしそれでも、俺には慣れているふりをする必要があった。
「悪いが、ここで待っていてくれ。」
俺は足を止めた。
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