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目の前に迫る廃屋は不気味な表情で俺たちを見下ろしている。
その左側、勝手口と思われる小さな扉がかすかに開いてるのを、俺は見逃さなかった。
アタリだな。
俺は一人、再び足を前に出した。
「パダン・トゥリンガ(トゥリンガ様)、私もご一緒いたします。」
俺の2倍、いや、3倍は長く生きているであろう彼に“パダン”と呼ばれるのにはもう慣れていた。
「いや、いい。もしも助けが必要な時は大声で叫ぶ。ここに待機していてくれ。」
俺は彼らを残し、廃屋の中に入っていった。
暗闇に目が慣れると、そこはかつて貴族の屋敷であったことが分かった。
外見はかなり朽ち果てているようだが、中に入ってみると案外いろいろなものが姿形をとどめている。
肘掛け付きの椅子と見事な彫刻の施されたテーブルが置かれている食事の間を抜け、俺は大広間で足を止めた。
赤いじゅうたんの上にガラスが散乱している。
上を見上げると、シャンデリアが金属部分だけを残して天井にぶら下がっていた。
壁には色あせた肖像画が飾られ、動物をかたどった石像が闇の中にたたずんでいる。
俺は静まり返ったその部屋の中央までゆっくりと歩き、石造りの階段の前で再び立ち止まった。
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