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そっと耳をすませると空気の流れる音が聞こえる。
風……
ちがう!
階段の上から迫るかすかな足音に剣を抜きながら振り返ると、金属と金属のぶつかり合う高い音がホールの空気を震わせた。
俺と相手の男は互いに後ろへ飛びのき、それぞれの剣を構えなおした。
「おっさん、客人へのもてなしにしてはずいぶん荒っぽいな。」
俺が口元に笑みを浮かべて言うと、男は声を上げて笑った。
「はっ、主人の許可もなく入ってくるようなやつを客とは言わないと思うが?」
暗すぎて顔はよく見えないが、男が身にまとっている紫色のローブは反太陽信仰勢力、『マラム神殿』の司祭であることを表している。
目当ての男だ。
俺は相手の様子をうかがった。
相手もまた、同じように俺を見すえている。
司祭の男が階段の5段目に立っているのに対し、こちらは床の上だ。
そのうえ、俺の身長はやつの肩ほどしかない。
不利なのは目に見えていた。
仕方ないな。
俺はきびすを返して階段の前から走り去ると闇にまぎれ、近くの石像の陰に身を隠した。
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