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月のない夜であったことをありがたく思った。
やつが階段をゆっくりと下りる音が聞こえてくる。
相手は俺のことを見つけられないでいるらしい。
俺は音を立てないように注意しながら大きく息を吸った。
心臓が激しく脈を打っている。
それでも敵は待ってくれない。
いつだってそうだ。
常に先を見越して行動しなければならない。
俺は唇を湿らせてから、足元に散らばるシャンデリアのガラス片からなるべく大きいものを選んで、手に握った。
もう剣は鞘(さや)に納めてある。
こいつは使わない。
俺は相手の男が階段を下りきったところで、ガラス片を部屋の奥へ投げた。
闇の中にガラスの割れる音が響き、男はそちらを振り返った。
「そこにいるのか。待ってろよ。」
男が俺に背を向けて、音のした方へ歩み寄る。
今だ……!
俺は足音を消してその男に近づいた。
その気配を感じ取り、やつが振り向く。
俺が剣を振り下ろしてくると思ったのだろうか。
男の剣は上からの攻撃を防ぐために、頭上ヘ持ち上げられた。
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