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……残念だったな。
俺は相手の脇へ飛び込むと同時に、ベルトに仕込んでおいたナイフを抜き、やつの横腹を切り裂いた。
ローブの奥の、確かな手応えがあった。
「…なんだ…と……?」
男が体を硬直させる。
俺はすぐさま相手に向き直ると床を蹴って前に飛び出し、やつの手首をできるだけ深く切りつけた。
男の剣が床に落ちる。
やつは言葉にならない叫びとうめき声を上げながら床に崩れ落ちた。
「なぜだ……。」
喉の奥から絞り出すようにして発せられたその声に俺は答えた。
「本当は俺、ナイフ使いなんだ。普段は剣士のふりをしてるけどな。」
偉大なるヌガラ騎士団には、暗殺者のようなこざかしい兵はいらない。
そう謳(うた)われている。
だから俺は長剣使い、ということにしてあった。
だが、一度間合いに入ってしまえばナイフの方が有利だ。
それに周りと比べて身長の低い俺には、細くて素早い立ち回りの方が合っていた。
「俺の任務は太陽帝(アピマ・タハリ)に従わないあんたらを始末すること。…もう分かるよな。」
俺は床に倒れたままこちらを睨むローブの男にナイフの切っ先を向けた。
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