第1章

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「あっつ・・・・・ああもう無理・・・・・」 耐えきれずセーターを脱ぎ、引き出しから出した下敷きでパタパタと顔をあおいだ。 時計は授業五分前。予鈴が鳴り響く教室は、まだガヤガヤと賑わい、中野はすでに涼しい顔で席についていて。それがなんだかすごく悔しい。 「あはは、ギリギリだったねえ。」 隣からかけられる声に、思わず苦笑いがこぼれる。 隣の席の小宮唯(こみや ゆい)とは小学生のこらからの知り合いだった。 地元からは決して近い距離ではないこの学園には、同じ地区の友だちは数えるほどしか在籍していない。同級生にはこの小宮と他に2、3人しかいないはずだ。 もともと社交的なほうではないし、ましてや女子とはほとんど関わりのない僕にとって、顔見知りの小宮が隣の席でいてくれることは有難い偶然だった。 「もうすっごい暑いよー。一気に。」 「どこまで行ってたの?」 「中庭。」 「あ、そうなんだー。どうりで今日は学食で見かけなかったわけだ。」 「え?もしかして小宮は学食行ったの?」 「うん、そうだよ。」 「え?!じゃあまさか今日の・・・・・」 「ハンバーグおいしかったー!」 「えーーー!!」 「あはははは!」 思い出してしまった・・・・・ ハンバーグ・・・・・ 俺のハンバーグ・・・・・ 泣きそうな気持ちを抑え、しかし耐えきれずにつっ伏す。 そんな僕を笑う小宮の声が高らかに聞こえてくる。なんということでしょう。 「なんで・・・・・今日すごい混んでたじゃんー。諦めちゃってさー。」 「確かに混んでたよね!私は1組の友だちが4限は移動教室だったから席とってもらってたの。だからヨユー♪」 「あー!そういうことするんだ。ずるい!」 「いえーい!そうだよね。三宅くんは昔からハンバーグ大好きっ子だもんね。今度はさ、三宅くんの分の席もとっといてあげるからさ。」 「うう・・・・・ありがとう・・・・・」 ああ、そういえば。 くるりと顔だけ動かし、小宮をじっと見つめる。 小宮は色白で華奢な、真っ黒のショートカットの良く似合う女子だ。入学したころから「美人」と噂になるくらいの容姿で、けっこう人気があるらしい。 小学生のころから仲が良くて、あんまり気にした事はなかったが、確かに綺麗だな、と素直に思った。しかしそれより今は 「ん?なに?いちごミルク飲む?」 「あ、飲むー。ありがと。」 手渡されるいちごミルクを受け取り、それを飲みながら、変に嬉しくなって少し笑った。
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