第1章

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(・・・・・・春だなあ・・・・・・) 思わずこぼれるあくびをセーターの袖口に吹き込んだ。 オレンジ色のカーテンが幻想的になびく教室。薄いカーテンに遮られた日差しが柔らかく差し込み、まだ少し冷たさの残る風を暖かく包み込んでいた。 学年がひとつ上がり、メンバーの変わったクラスにも慣れてきたこの時期、落ち着いた雰囲気と春の陽気が静かな数学の授業に余計に眠気を促す。教室の一番後ろの席から見ていても、何人もの頭がかくかくと下がっているのがわかる。 「・・・・・・えー、であるから、この場合xは3となり、これを次の式に当てはめると・・・」 田中先生の低い声はきっと睡眠効果でもあるんだ。チョークが黒板に当たる音まで規則的で気持ち良い。 買ったばかりのノートに板書をうつし、シャーペンを転がした。 (・・・3・・・・・・2・・・・・・1・・・・・・) ~♪ 授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。 「お、もうそんな時間か。みんな起きろー、飯だ飯。いっぱい食えよ。委員長。」 「はい。起立、礼。」 『ありがとうございましたー。』 ざわつき始める教室。グループも出来上がってきたクラスメイトは定位置に机を動かしていく。僕ものびをして机にかけたカバンから財布を取り出した。 「おーい、三宅。」 ごった返す教室から頭一つでかい巨人が顔を出す。 「おい、早く行くぞ。学食埋まっちまう。」 さっきまですやすや寝てたはずの男がもう財布を掲げて立ち上がっていて。 「中野さ、昼ごはんの時間だけはしっかり起きてるよね。」 「当たり前だろ?本能だよ。」 「はいはい。」 中野悠太とは一年のころから仲が良いが、1年経ってもこの身長差は全く縮まる様子がない。むしろ中野は絶賛成長期でどんどん伸びていく一方だ。こっちは165cmのところでくすぶっているというのに、この一年ほどであいつは5センチも伸びていまは175cm。なおまだ成長が続く模様。 「・・・・・・はあ。」 「なんだよ。腹へったのか?」 「うん・・・へったよ。早く行こ。」 image=502324779.jpg
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