第1章

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中庭に出ると、いつもの赤いワゴン車が止まっていた。近所にあるパン屋さんが、昼間に購買を開いてくれるのだ。 車の前に並べられた長机の上に、焼きたてのおいしそうなパンたちが整列している。 このパンもまた大人気で、今日は出遅れたせいもあって1段と混みあっていた。人混みが壁となり、なかなか商品をチェックすることもできない。 (うう・・・・・せめてチョコチップメロンパンだけでも・・・・・) ハンバーグの恨み、ここで晴らすしかない。 そうして伸ばした手も、悲しくどっかのだれかの背中に遮られてしまった。 (終わった・・・・・) そう思ったそのとき。 「おい。お前何がいいの?」 見上げると、中野がこっちを見下ろしていて。 人混みよりも頭一つでかい中野は、いとも簡単にチェックし、長い腕でパンを手に取り、勘定を済ませている。 いつもなら少し羨ましく思うところだが、今は天使のように見えてしまった。 「チョコチップメロンパン!!」 「おー、あるある。あとは?」 「・・・・・半熟卵のカレーパン・・・・・」 「お!ラストワン!」 「まじか!セーフ!!!」 「おっけーおっけー。あとは?」 「んー。ワッフル。普通のやつ。」 「OLみたいなランチしてんじゃねぇよ。」 「うるさいなあ。」 「おばあちゃん!会計!」 大満足の買い物にほっこり幸せな気持ちになる。 喧騒を離れ、中野が支払い終わるのを待つ。離れたところから見ても、中野はやっぱりどでかい。1段と目立っていた。 よく見ると、ちらほら、そんな中野の後ろ姿を見ながら、きゃぴきゃぴとはしゃぐ女子たちがいて。 (ま、そうなるよね。) 買い物を終え、嘘みたいな量のパンを片手に帰ってくる中野を見て、思わず笑いがでる。 「ありがと。」 「おー。」 「お金、座ってからでいいでしょ?」 「ん。そうしようぜ。」 「どっか空いてるといいねー。」 まだひそひそと色めき立つ外野を尻目に、俺達は中庭へと歩き出した。
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