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中庭に出ると、いつもの赤いワゴン車が止まっていた。近所にあるパン屋さんが、昼間に購買を開いてくれるのだ。
車の前に並べられた長机の上に、焼きたてのおいしそうなパンたちが整列している。
このパンもまた大人気で、今日は出遅れたせいもあって1段と混みあっていた。人混みが壁となり、なかなか商品をチェックすることもできない。
(うう・・・・・せめてチョコチップメロンパンだけでも・・・・・)
ハンバーグの恨み、ここで晴らすしかない。
そうして伸ばした手も、悲しくどっかのだれかの背中に遮られてしまった。
(終わった・・・・・)
そう思ったそのとき。
「おい。お前何がいいの?」
見上げると、中野がこっちを見下ろしていて。
人混みよりも頭一つでかい中野は、いとも簡単にチェックし、長い腕でパンを手に取り、勘定を済ませている。
いつもなら少し羨ましく思うところだが、今は天使のように見えてしまった。
「チョコチップメロンパン!!」
「おー、あるある。あとは?」
「・・・・・半熟卵のカレーパン・・・・・」
「お!ラストワン!」
「まじか!セーフ!!!」
「おっけーおっけー。あとは?」
「んー。ワッフル。普通のやつ。」
「OLみたいなランチしてんじゃねぇよ。」
「うるさいなあ。」
「おばあちゃん!会計!」
大満足の買い物にほっこり幸せな気持ちになる。
喧騒を離れ、中野が支払い終わるのを待つ。離れたところから見ても、中野はやっぱりどでかい。1段と目立っていた。
よく見ると、ちらほら、そんな中野の後ろ姿を見ながら、きゃぴきゃぴとはしゃぐ女子たちがいて。
(ま、そうなるよね。)
買い物を終え、嘘みたいな量のパンを片手に帰ってくる中野を見て、思わず笑いがでる。
「ありがと。」
「おー。」
「お金、座ってからでいいでしょ?」
「ん。そうしようぜ。」
「どっか空いてるといいねー。」
まだひそひそと色めき立つ外野を尻目に、俺達は中庭へと歩き出した。
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