第1章

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「お、ここ最高ー!」 中庭の端にちょうどいい木陰を見つけ、ふたりでそこに腰掛けた。 あちーな、なんて言いながらセーターを脱ぐ中野の口にはすでに二つ目のパンがくわえられている。 「お前さ、もっと食った方がいいよ。まじで。」 「えー。太っちゃう。」 「その節々に出してくるオネエキャラなんなの。」 「あはは。やだー。」 「はいはい。」 「あの!」 メロンパンの袋をやぶきながら顔を上げると、そこには見慣れない女の子が3人立っていて。俺はチラッと中野を見るだけで、すぐに口を閉じた。中野はかぶりつこうとしていたパンから口を離し、気まずそうに頭をかいた。 「ん?なんか用?」 「あのっ、こ、今度、第一中学との試合!がんばってください!」 「がんばってください!」 「応援しに行きます!」 「あー・・・・・はは、ありがとう。」 「いえ!えっと・・・・・そ、それだけなので!お邪魔しました!」 勢いよく頭を下げて走り去っていく。まさに、嵐のごとく。 それをしばらく呆然とと眺め、中野はまたぽりぽりと頭をかいた。 「・・・・・知ってる子?」 「知らね。」 中野は小さくため息をつくと、パンを口に放り込み、ぱたりと後ろに倒れ込んだ。 決して珍しい光景ではなかった。 中野は今や、二年生にしてすでにバスケ部のエースだった。もともと運動が得意で、背も高くて、頭の回転も早い。おまけに顔は彫りが深く、かといって濃すぎるわけでもない。いわゆるイケメンだ。 入学して間もなく、たちまち注目の的となった。 ただ中野のすごいところは、決してそれを鼻にかけたりしないところだ。いや、大切なのは、鼻にかけず、それでいて冷たい態度をとるわけでもない、というバランスだ。 ああいった女子に変に冷たくしすぎても、「調子に乗っている」と思われてしまうもので、かといって構いすぎると「遊んでいる」とも思われる。 しかし中野は、そのどちらの悪い噂もたたなかった。 応援されれば、素直に「ありがとう」と言う。 告白されれば、丁寧に「ごめんなさい」と言う。 人に迷惑をかける行為を受ければ、必ず断りを入れる。 部活の先輩には礼儀正しく、おごったりしない。 だれよりも練習し、だれよりも丁寧に片付けをし、物怖じせず教えを請う。 その実直な性格が、中野自信を守っていた。 異性にも同性にも好かれる。それは一種の才能だと思う。
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