第1章

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僕自身は、こうして少し考えすぎてしまうほうだ。 もし僕が中野の立場だったとしたら、考えすぎてしまって、それを悟られて、胡散臭く見えてしまうだろうと思う。 だから僕は素直に中野を尊敬していた。中野のような、器の大きい人間になりたいと、何度もそう思った。 なかなか、難しいものだけど。 道すがら買ったパックの牛乳をチューチューと吸いながら、ふと上を見上げてみる。 春の光が木の葉の隙間からちらちらと降り注いで、まるで光る雨が降っているように見える。地面や自分の手のひらにその雨が降り注いで、限りなくシンメトリーに近いような模様を刻んでいた。 (ああ、カメラ持ってこればよかったな。) そう思いつつぼんやりとしているうち、瞼がゆっくり重たくなっていく。お腹もいっぱい。最高に幸せな気持ちだ。 カサカサと木の葉が風にゆれる音が、寝ていいのよ、と言っている気がする。 段々とその音が規則性を帯びているように聞こえる。段々と音が近くなる。 これは風の音じゃないかも。 足音? ふと目を開けた眼前に、ふわふわとした巻き毛が広がっていた。 大きな、猫のような瞳の目が合う。 「こんにちは。」 「うわあ!!!!」 「うお!!!!なんだ!!!」 思わず後ろにひっくり返り、その騒動にいつの間にか寝てしまっていたらしい中野が飛び起きる。 「びびった!!なに?!」 「いやいやいや!」 あまりに予想外の光景に寝ぼけていた頭がパニックを起こす。心臓がバクバクとうるさく鳴る。ホラー映画と同じ感覚だ。 このまま弾けてしまいそうな胸を思わず手で抑えながら見上げると、さっきの猫目がおもしろそうに笑っていた。 「いやいやいやってお前・・・・・って、あれ?「サヨ」じゃん!!!」 「やっほー。」 「やっほー?」 サヨ?なに? 指を指す中野とヒラヒラと手を振る猫目を交互に眺め、余計にパニックになる。 なんなんだ今日は。厄日だ。 「サヨ?なに?知り合い?」 「ゆうちゃん!ひっさしぶりー!」 「ゆうちゃん?」 「久しぶりだよな!え?なんでいんの?」 「今年から編入したんだよー。またよろしくぅ!」 「よろしくぅ!」 「なんだそのノリ・・・・・」 もう無視されすぎて逆に落ち着いてきた。ハイタッチを繰り出すふたりを眺め、小さくため息ついて起き上がる。すると猫目がストンと芝生に腰を下ろし、なぜか正座。
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