逃げるだけが鬼ごっこではありません!

119/121
前へ
/307ページ
次へ
「今回の鬼ごっこは逃げ切るって決めてんだ、俺!」 少し落ち着きを取り戻した月村が「なんでー?」といつもの間延びした口調で聞いてくる。 漸くいつものチャラ男キャラを取り戻した月村に調子付いた俺は、 「実は黎とゲームしようって言われたんだ!」 言うつもりのなかった双子との賭けの事をつい口走ってしまい、それに月村は目を光らせた。 「黎って、生徒会の双子のー?」 「そう!この鬼ごっこで、俺が逃げ切れるかどうかってゲーム!」 「へええぇ〜?」 にへ、と嫌な笑みを浮かべる月村の横で竜胆が笹塚を小突くのが見えた。 「……おい、聞いてないぞ。」 「わ、わりぃ……なんか言うタイミングなくて……」 困ったように眉を下げて笑う笹塚を見て「ったく」と竜胆は肩を下げた。 「賭けに負けた方は、勝った方の言う事を何でも一つ聞くってことになってさ……だから捕まるわけにはいかねぇんだよ」 「何でも一つ……言う事を聞く……!?」 笹塚が補足してくれた言葉に反応して、月村の目に熱が籠もる。 月村からの熱い視線を感じつつも、時計を確認すればもう鬼ごっこの終了時刻間際だった。 やっとこの一大イベントに終止符を打てるのか、と思うと気が緩んだ。 そう、完全に俺は油断していた。 だからなのだろう。自分の身に迫る不穏な気配に気付けなかったのは。 くん、と頭を後ろに引っ張られるような感覚に、思わずたたらを踏む。 「え」 と思わず漏れた声と、ビーッ!とけたたましく学園内に鳴り響くブザーの音が重なった。 『新入生歓迎会全校生徒鬼ごっこ、終了の時刻です。 皆さん、スタート位置の講堂へと戻ってきてください。』 鬼ごっこ終了時刻の合図であるブザーが鳴った直後に、放送用スピーカーからそんなアナウンスが流れた。
/307ページ

最初のコメントを投稿しよう!

939人が本棚に入れています
本棚に追加