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「今回の鬼ごっこは逃げ切るって決めてんだ、俺!」
少し落ち着きを取り戻した月村が「なんでー?」といつもの間延びした口調で聞いてくる。
漸くいつものチャラ男キャラを取り戻した月村に調子付いた俺は、
「実は黎とゲームしようって言われたんだ!」
言うつもりのなかった双子との賭けの事をつい口走ってしまい、それに月村は目を光らせた。
「黎って、生徒会の双子のー?」
「そう!この鬼ごっこで、俺が逃げ切れるかどうかってゲーム!」
「へええぇ〜?」
にへ、と嫌な笑みを浮かべる月村の横で竜胆が笹塚を小突くのが見えた。
「……おい、聞いてないぞ。」
「わ、わりぃ……なんか言うタイミングなくて……」
困ったように眉を下げて笑う笹塚を見て「ったく」と竜胆は肩を下げた。
「賭けに負けた方は、勝った方の言う事を何でも一つ聞くってことになってさ……だから捕まるわけにはいかねぇんだよ」
「何でも一つ……言う事を聞く……!?」
笹塚が補足してくれた言葉に反応して、月村の目に熱が籠もる。
月村からの熱い視線を感じつつも、時計を確認すればもう鬼ごっこの終了時刻間際だった。
やっとこの一大イベントに終止符を打てるのか、と思うと気が緩んだ。
そう、完全に俺は油断していた。
だからなのだろう。自分の身に迫る不穏な気配に気付けなかったのは。
くん、と頭を後ろに引っ張られるような感覚に、思わずたたらを踏む。
「え」
と思わず漏れた声と、ビーッ!とけたたましく学園内に鳴り響くブザーの音が重なった。
『新入生歓迎会全校生徒鬼ごっこ、終了の時刻です。
皆さん、スタート位置の講堂へと戻ってきてください。』
鬼ごっこ終了時刻の合図であるブザーが鳴った直後に、放送用スピーカーからそんなアナウンスが流れた。
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