逃げるだけが鬼ごっこではありません!

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「あ」 と竜胆と笹塚が声を揃えて言った。 二人の目線は俺の後ろへと向いている。 二人の目線の先の正体が気になって、俺もそれを辿るように後ろを振り返った。 「は……?」 開いた口から、言葉にならないそんな声が思わず漏れた。 鼻に詰めたティッシュが血で赤く染まったその上で、ボタボタとそのティッシュから抑えきれなかった鼻血を滴らせている腐男子の姿が、俺の視界に映りこむ。 いや、腐男子のそんな鼻血事情など俺にとってはどうでもいい。重要なのは、その腐男子の手に何故か握られている白い鉢巻だ。 腐れ男子月村の頭には赤い鉢巻。つまり鬼側で……その鬼側の月村が白い鉢巻を手にしているということは、誰かを捕まえた、ということだ。 ……待て。その白い鉢巻は、一体誰の物だというのか。 恐る恐る、俺は自分の頭を確認してみる。 モサモサの触り心地の悪い髪の毛には、白い鉢巻が巻かれていたはずだ。その俺の頭に巻かれているはずの鉢巻は確認できず。 ……まさか、え、そんなまさか。 「え、あ……え?」 上手く言葉を紡げずに、振り返って笹塚と竜胆の二人に目で問い掛けると、二人とも気まずそうな表情で頷いた。 つまり俺の思い違いとかではなく、これは、つまり、つまり…… 「転校生くん、捕まえちゃった〜♪」 鼻血を滴らせているのも気にせず、キラキラと輝かんばかりの良い笑顔で、月村はそう言った。 あぁどうしよう。殴りたい、その笑顔。
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