王道転校生と鬼ごっことその後日

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「……ごめん」 恥ずべき行為をもう少しで晒すところだったのだと気付いて、しょんぼりと謝罪の言葉を口にする。 「いや別に……謝れってわけじゃなくて、単に俺が嫌だってだけで……あぁくそ、もういい! ……ほら、コレ使えよ」 相変わらずの不貞腐れたような表情の会長は、ガシガシと荒っぽく頭を掻くと俺に新しいスプーンを握らせた。 いつの間に用意していたのか。 やはり人の上に立つ人間は、こういった機転がよくきくのだろうか……流石は金持ち学園の会長だ。 会長のお陰で、漸く心置きなくオムライスにありつける、と口を開けて頬張る直前にそのスプーンをまたヒョイと取り上げられる。 「ちょっとちょっとーりいとってばさー! なんか忘れてることあるでしょー?」 そう言いながらぷぅ、と両頬を膨らませて上林兄が眼前に迫ってきた。 ま、た、か。 なんで皆して俺の食事の邪魔をする? 食わせろよ、俺に飯を!!(2回目) 「知らねぇ!俺腹減った!ご飯食いたい!」 ずっとお預けを食らってる俺はいよいよなりふり構っていられなくなり、自分の欲求を包み隠さずに放っていく。 「俺のオムライスうぅ!!」と唸るような声を上げれば、それに共鳴するかのようにお腹からもぐぅぅと虫が鳴いた。そろそろ腹の虫が暴れだしそうである。 いよいよ大合唱を始めかねない腹の虫達を鎮めるべく、上林兄が奪い去ったスプーンに手を伸ばす。 もうすぐで取り返せる……と思ったころで、今度は明先輩へとそのスプーンが投げ渡された。 「ざんねーん!僕等から取り返そうだなんて、諦めた方がいーよ?」 ニコッと天使のような朗らかな笑顔を浮かべながらそう言う明先輩だが、やってる事はただのいじめっ子である。 ……しかし、彼の裏の顔を知ってからこの演技を見ると、すごい変な気持ちになる。 無性に裏の顔の彼を誰かに教えてあげたくなるというか。 言うなればまさしく、王様の耳はロバの耳だと知ってしまった床屋の気分だ。
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