1、逮捕当日~7月3日~

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7月3日午後3時、僕は逮捕された。それは、とある静かな住宅街での出来事である。そこに見えるのは、手錠を掛けられたスーツ姿の僕、その僕を取り囲む5人の私服刑事逹、まるで刑事ドラマの一節のような光景が、僕の目の前に現実に起きていた。僕は今、自分の身に何が起きているのか、はっきりとは理解出来ずただ呆然とその場に立ちすくんでいた。少し経つと、遠くの方から一台の乗用車がゆっくりと不気味に近付いてきて、僕の前に止まった。刑事さんが、後ろのドアを開け優しい声で「真ん中に座ってくれる」と声を掛けてき、僕は言われた通りに乗り込もうとするが、両手が塞がっているので少し苦労したが、何とか後部座席の真ん中に座ることができた。狭いにも関わらず、その両サイドには刑事さんも乗り込んで来た。そして、助手席にも刑事さんが乗り込み携帯電話でどこかに電話をしていた。多分、これから向かう管轄の警察署に電話をしているような感じだった。4人の刑事さんと僕を乗せた乗用車は、静かにその場を走り去っていった。この日は梅雨真っ只中、外は蒸し暑くジメジメしていたが車内は、ガンガンに冷房が効いていて快適な空間であった。僕は、未だに状況が理解出来ず頭の中は真っ白、ただ「ぼ~」っと車内から見える風景だけを眺めていた。今どこを走っているのか、どこへ向かっているのか全く分からなかった。なぜなら、その地は今日初めて降り立った地であるからである。無言で外を眺めている僕に、刑事さんが色々と話しかけてきた。どんな内容の話であったかは全く覚えていないが、とても穏やかな口調であったことは、なんとなく覚えている。車が現場から走り出してから、15分くらいたった頃、助手席の刑事さんがまた、携帯電話で警察署と思われる所に電話しており「あと、5分くらいで到着します」というようなことを話していた。それから間もなくして、車のフロントガラスには、かなり古びた警察署らしき建物が映ってきた。築数十年たっていると思われ、白い外壁もあちらこちら黒ずんで汚れており、まるで廃墟になった心霊スポットのような不気味な雰囲気が漂っていた。僕は、心の中で「近づくな!近づくな!」とずっと念じていたが、そんな心の叫びも虚しく車は容赦なく建物へと近付いていく。そして、いよいよこれから僕は、自由を失った暗い生活への幕開けとなるのであった。
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