向日葵

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(8) 夜になって夫が帰宅した。なんとなく機嫌が悪そう。 でも今夜離婚を切り出すことは、雪菜の電話のあとから決めていた。パートに行きがけに入金も確認してきた。 それにしても、ポンと200万もの現金を出せるなんてね。きっと結婚のためにコツコツ貯めてきたに違いない。 風呂を済ませ、ビールを手酌でやり出した夫に、私は声を掛けた。 「ちょっといい?話があるんだけど」 夫はビールを飲みかけたまま固まった。 「なに?」 びっくりしてる。こんな会話さえ久しぶり。 私は内心の興奮を抑えるのが大変だった。このシーンを何度想像してきたことか。やっと夫に告げる時がきた。 夫婦の距離感は、心の距離感。私は、狭いLDKのダイニングスペースにいる夫に向かい合うのに、リビングのソファーに腰掛けた。 「離婚、しない?」 結婚を決めた時みたいに、あっさり決まればいいけど。 夫は無言で、ビールが半ば残ったグラスを置いた。その目は久しぶりに私の顔を見つめていた。なにかを探るように。 「なんだよ、急に・・・本気か?」 まさか冗談なんて。私たち、そういう空気ないじゃん。 心の中で突っ込みながら、余裕の微笑みを見せた。 「別にいいでしょ?なんか問題ある?」 夫はため息をついた。浮気のことがバレた、いやバレてないとの葛藤が見えるようでおかしかった。 「問題、はないけど。このままだって別に問題はないだろ?離婚なんて面倒じゃないか」 なんて人なんだろう。やっぱり彼女とは遊びなんだ。その上、私をこんな結婚に縛りつけて不幸にしてるのに。 ムクムクと怒りが湧いてきた。でも感情的に話し合うのは苦手だ。堪えなきゃ。 「無責任過ぎるよ」 「え?」 「女をなんだと思ってるの?」 馬鹿みたいに口をパクパクして、『え?』を繰り返す夫に、更に畳み掛けた。 「瀬川雪菜」 あ、という音はなかったが、夫は確かに『あ』と言った。 そうそう、バレてますよ。
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