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オジさんは、見かけに寄らず、素敵なレストランに連れていってくれた。
『高そ』と、内心で呟いた。
慣れた仕草で席へと私をエスコートしてくれるあたり、紳士然としていて、私はドギマギしてしまった。
高級そうな場所柄の店は、それなりに慇懃無礼な店員が仕切っていた。
私には苦手なタイプの店だけど、オジさんに気を使って笑顔を見せていた。
二人きりで話は自然にお互いの離婚のことになっていく。
オジさんは、自分は技術者で、それまでは器用に女性と遊ぶ発想はなかったと言った。
出会ってしまったんだ、と。
そういう意味で言えば、出会ってしまったのは私と元夫の方で、夫にとって運命の相手は瀬川雪菜だったのではないかと今にしたら思える。
だから、私の運命の人はこれから出会うに違いない・・・と思いたい。
私たちはお互いの恥ずかしい話をしたら、なんだか友人のような気もしてきて。
店を出る時、オジさんはタクシーを頼んでいたようで、私たちはそのまま一緒に帰った。
タクシーの中では変わらない様子だったのに・・・。
私のアパートの前でタクシーを降り、私はご馳走のお礼と挨拶をして立ち去ろうとした時、オジさんは、私の二の腕を掴んだ。
振り返ったら、オジさんの切なそうな瞳にぶつかった。
「瑞希さん、部屋に上がってもいい?」
その意味するところはわかった。
「・・・はい」
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