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その晩、自宅で泣いていた私のところにオジさんが来た。
もちろんセックスしに来たわけではない。
「理不尽だと思うだろうが、自己都合と言うことにして退職届を出してくれないか?」
オジさん、困ってるの?それってかなりずるいよね?
すんなり辞めるべきか、私はまだ気持ちを決めることができないでいた。
「ちゃんと説明してください。どうしてなんですか?」
私は震えそうになる声を抑えようと力んでしまい、すごく低くてこわい声が出てしまった。
オジさんは、私の部屋の小さなちゃぶ台の前に胡座をかいて座っていた。いつもの場所。
私はお茶も出さずに、オジさんと向かい合った。
「・・・僕が、以前不倫して社長の不興を買ったことは話したよね・・・あの時は大変だった」
オジさんは当時の苦労を思い出したようで、深くため息をつく。
「ここだけの話にしておいて欲しいんだが、実は、今の社長は近く退陣する。その後、僕は返り咲く予定だ」
驚いた。そうだった・・・この人って、すごい人なんだった。
「社長、代わるんですか?」
「いつ誰にとは言えないけど、近い将来ね。いろいろあるんだよ、上の方では」
はぁ、そうですかと言ったまま黙っていたら、オジさんは話を続けた。
「今後、僕は今の事業部のトップになってから取締役にってコースができあがっている。その時のために、不祥事を起こした時から、ひっそりと影を潜めていたんだ」
社内トップクラスの派閥抗争的なものがあって、オジさんは業界の人脈もあるから、打倒現勢力の秘密兵器みたいな話だった。
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