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翌週、退職の手続きのため、人事部を訪れて茜さんを探すと、すぐに茜さんが目で合図を送ってきた。
30分ほどで手続きは終わった。あっけないほどに。
茜さんは、人事部の外で待っていた。
茜さんとはあれ以来飲みには行けてなかった。
タイミングが合えば、食堂で一緒に食べたりはするけど。あそこで深い話はできない。
「瑞希さん。私にもお達しが来たわ」
「あ・・・そう・・・なんだ」
少し期待してたけど、茜さんの目を冷たく感じた。
どんなお達しだったんだろう。
「女癖の悪い人」
「え?」
「・・・というシミを広げてしまう」
ああ、オジさんね。茜さんは派閥のこっち側なのね。
「いろいろ、ごめんなさい」
茜さんは少し表情を和らげながら、「誰かに謝るようなことはしてないでしょ」と言い、クスッと笑った。
「茜さん、正直私は、なんだか釈然としないの。言われた通り辞めはするけど」
茜さんは私の顔を見つめた。明るい廊下だったから、茜さんの瞳の色や大きさ、白目の白さがはっきり見えた。本当に綺麗な目。
「尾治事業部長はね、前はそう呼んでいたんだけど、今の社長がいなかったらとっくに取締役だったの。あの人の周りは、あの人を守るために躍起になってる」
まるでお祭りの神輿だね。
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