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それから、短い言葉を選びながら、茜さんは私の採用に関わる秘密を打ち明けてくれた。
当然そう感じてはいたが、私が代わりになった人間がいた訳で。
そこそこ優秀な女子大生らしかった。
採用の段階で、誰がどこの部署かは決まっていた。
採用が決まってから、女子大生が在学中、准教授と不倫しトラブルを起こしていたことが分かった。
それで採用は取り消された。
他に入れ替えが利かないとのことで、新たに一人の採用枠を設け、たまたま私が受けに来たということ。
勿論、私についてはよく調べられていて、不倫の妻側、つまり被害者だから大丈夫だと考えられたそうで。
私はそんな話を聞いて、妙に納得していた。そうだったんだね。旨い話だと思ってた。
茜さんはそっと言葉を継ぐ。
「・・・そういうこと、知ってたら、そうならなかった?」
茜さんの問いかけの真意を気にせず、あの時のことを思い出して考えてみた。
そういう事情のあることを知っていて、オジさんから求められたらってことでしょ?
「・・・ならなかったと思う」
そう、私はバカじゃない。
それに、寂しい暮らしをしていたわけでもない。明日を夢見て、日々を楽しんでいた。
「オジさん、私のこと寂しいやつだと思っていたんだね。だから慰め合えると・・・」
「忘れた方がいいわ」
うん、と下を向いた時、目から雫が落ちた。私は泣いてたことも自覚してなかった。
お元気でと、茜さんは最後に言った。茜さんは私を忘れようとするのかな。
きっと、これからの暮らしは寂しいに違いない。寂しさを紛らせて生きていくんだ。
人生が180度変わるってこういうことなのだとわかった気がした。
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