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こいつは何が言いたいんだ・・・。 不意に発せられた言葉に、梅里裕一は口もとまで運んだ車海老を落としそうになった。 向かいの席に座っている男は、梅里を見据えてこう言ったのだ。 「アゲハヒメバチって知ってるか?」 まるで洞穴のように暗い瞳に見つめられ、梅里は視線を逸らすことができなかった。 もし、逸らしたりすれば、一年間築きあげてきた男からの信頼を、失ってしまうのではないかと思えたからだ。 中目黒の川沿いに立つ中華料理店。 朱塗りの梁と金色の龍を意匠にあしらった豪奢な店構えで、本国調理人による四川料理が売り物の高級店だ。 男との仕事の打ち合わせには、しばしばこの店が利用された。 それは、個室の防音効果の高さと、裏口を利用すれば他の客と顔を合わせずに出入りできることが理由だった。 男の名前はわからない。 関係者は一様に教授と呼ぶ。 梅里もそれにならい、頭髪を綺麗に剃りあげた恰幅のいいこの男のことを、教授と呼んでいた。 回転テーブルに並べられた色とりどりの四川料理を前にして、梅里がチリソースをまとった車海老を頬張ろうとした瞬間、教授はそう言ったのだ。 「アゲハヒメバチって知ってるか?」
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