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卑猥な人差し指が、梅里へ向けられる。
「そう、それだ。寄生虫ってのは動物の体の中に住みつく。宿主から栄養をかすめとって生きてるんだ。だから、必要以上に栄養をぶんどったりしない。もしそんなことをして宿主が死んでしまったら、自分も死んでしまうことになるからな。共存しているわけだ。ところが、このアゲハヒメバチってのは違うんだ」
教授の話は続く。
話の折々にその人差し指が、梅里、棚橋、黒ジャケットの男、女性秘書へと順々に移ろう。
「このアゲハヒメバチってのは違うんだ。まず、アゲハチョウの幼虫に卵を産みつける。そして幼虫の中で栄養分をとりながら成長していくんだ。で、アゲハチョウの幼虫がサナギになるだろ、そうしたら栄養分をとって、とって、とりまくる。サナギの殻だけ残してな、全部を食べつくしてしまうんだ。そして自分は羽化して、サナギの殻に穴をあけて飛び立っていく。どうだ、太えヤツだろ。宿主を食べつくして、自分は成長する」
教授はひと息つくと、ふたたびビールをあおった。
そして大きなゲップをかます。
梅里の目の前に、ビールとタバコと香辛料の入り混じった不快なにおいが漂った。
「寄生虫ってのは、どこにでもいるもんだ。それは人間社会においても同じだ。会社の金を横領するOLだって、言わば寄生虫だ。会社に寄生して、金をかすめとってる。政治家なんてのは、その代表みたいなもんだろ。この国に寄生して、私腹を肥やしてやがる。まあ、かく言うワシも裏社会に住みつく寄生虫みたいなもんかもしれんがな」
教授が自らのもの言いに、大声をあげて笑った。
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