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「いわば、政治的配慮ってやつじゃないか。教授は無茶をしない。ドラッグを乱売して市場を混乱させたりしないし、他の元締めと勢力争いもしない。穏健派とさえいわれているくらいだ。もし教授を捕まえてみろ、必ず誰かがその後釜に座る。そいつが穏健派ならいいが、乱売や勢力拡大を図るようなら、市場は混乱し、多くの血が流れる」
「それは、厚労省が教授を容認しているってことですか? そんなもん、共謀でしょ。厚労省がヤクの売買を手助けしているようなもんじゃないですか」
「共謀なんかじゃない。静観しているだけだろ」
「ヤクの売人がいて、居場所がわかってて、捕まえない理由がどこにあるんですか? 俺には意味がわかりません」
梅里は怒りに任せて腕を振るった。
手の甲がハンドルにぶつかって、クラクションが鳴った。
「おい、梅里。熱くなるな。教授を捕まえたところで、別な教授が出てくるだけだ。イタチごっこなんだよ。ドラッグの蔓延をくい止めることなんてできやしない。もしやるなら、教授からルートをさかのぼって、東南アジアの製造元までつぶす必要がある。東南アジアのドラッグ入手ルートが切れれば、日本のドラッグ市場が数年間は衰退するだろう」
「やります。俺、そのためならなんでもやります。どうすれば?」
梅里の情熱に気圧されるように、佐々木はそっぽを向いた。
「教授も馬鹿じゃないからな。簡単にルートを嗅ぎつけられはしないだろう。んん。まあ、そうだなあ。教授の右腕にでもなれば、本人の口から教えてもらえるかもな」
それは佐々木が、熱くなった梅里を冷ますための、冗談半分に言った言葉だった。
だが彼には冗談に聞こえなかった。
梅里は心の奥底へ刻み付けるようにつぶやいた。
「教授の右腕か・・・」
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