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自己満足的な正義感や、誰かに見られることを意識して偽善者ぶるつもりもない。
ただ、他の人ではやりたくてもできないことが、今の自分にはできるという状況があっただけだ。
自分なら、教授の懐に食い込めるかもしれない。
冷静に考えて、自分以外にこの任務を全うできる人材はいないと思っていた。
例え、おとり捜査が認められているとは言え、そこまでの潜入捜査をすることになれば、捜査課の人たちに迷惑をかけることはわかっていた。
ひいては麻薬取締部全体の問題となる可能性もある。
また、国家公務員という立場が、潜入捜査の足枷になることもあるだろう。
様々な要因を論い、足りない頭で眠れない夜を費やし、考えに考えた末の結論が辞職だったのだ。
そんな思いを猿渡課長に伝える方法が見つからず、梅里の口から出た言葉はひと言だった。
「すみません」
「本気ですまないと思うなら、行動で示せよ」
猿渡課長は、辞表を取り上げると、梅里へ投げつけた。
封書は、頬にぶつかり床に落ちる。
梅里はゆっくりと屈んで封書を拾うと、課長の机の上に戻した。
それが梅里の示した答えだった。
「ああ、わかった。なら、出てけ。今すぐ消えてくれ」
課長はあきらめたように、ため息をついた。
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