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梅里は、深々と頭を下げると、礼儀正しく回れ右をして部屋を出て行こうとした。
その背中に声がかかる。
「いいか。おまえの頭は単細胞なんだからな。すぐ熱くなるんだから、十分に注意しろよ。佐々木が何を吹きこんだかは知らんし、おまえがこれから何をしようとしているのかも知らん。だがな、よく憶えとけ。深追いはするな。深追いすれば、待つのは死だ。いいか、少しでも危なくなったら逃げ帰ってこい。助けが必要になったら、いつでも声を掛けてこい。俺たちは待ってるからな。わかったか」
梅里は振り向いた。
猿渡課長は、椅子に背をもたれさせたまま、後ろを向いていた。
窓の外を眺めて、さらにひと言付け加える。
「絶対に死ぬな」
梅里はもう一度深々と頭を下げた。
課長の背中に向かって、感謝の気持ちを込めて頭を下げた。
その気持ちは、言葉には変えられなかった。
頭を上げると、早々と課長室から立ち去った。
自分の決断が揺らがないうちに、課長のもとから離れたかった。
捜査課を後にして駐車場へと向かう道すがら、見上げると空はやけに青かった。
白い雲が心地よさそうに浮かんでいる。
これから先に待ち受けるであろう出来事と正反対に思える、晴天。
暖かい春風が、梅里の背中をそっと押した。
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