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梅里は教授から視線を逸らさなかった。
教授の暗い瞳を見つめながら、頭の中ではどうすれば疑いを晴らせるかを考えていた。
方法はひとつしかないように思えた。
それは、請け負った仕事をきちんと成立させることだ。
梅里は思い切って口を開いた。
「俺も蜂は好きじゃないです。ブンブン飛び回ってうるさいだけです。蜂の話はもういいでしょう。それより仕事の話が聞きたい」
教授が張り詰めた緊張感をふり払うように、手を打ち鳴らした。
そして大声で笑うと、梅里を指差した。
その指鉄砲の銃口は、ぴたりと梅里の眉間に狙いを定めていた。
「梅里っ。おまえのその目つき、いいぞ。いいぞ。ワシはおまえのようなヤツが大好きだ。そうだ。そのとおりだ。早速仕事の話をしようじゃないか。河内、おまえから説明しろ」
教授は女性秘書の尻を軽く叩いてうながした。
河内は、おもむろに胸元に手をつっこむと、小さな銀色の物体をとりだし、梅里に投げてよこした。
受け取って手を広げてみると、それは車のキーだった。
「今回の仕事は、品川から新潟まで荷物を運んでもらうことよ」
女性秘書は抑揚のないしゃべり方で説明を始めた。
「向かう先は新潟県燕市。目的地は、中ノ口川沿いにある『エフ』という名のペットショップ。荷物は明朝の午前八時に品川に到着する予定よ。高輪台のホテルグランデ横にコインパーキングがあるわ。十二番スペースに緑色の国産フォードアセダン車が止まっているはず。荷物は後部トランクの中に入っているわ」
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