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梅里は道路マップを片手に、行き先を指示する。 それにしたがって、棚橋がハンドルを切る。 赤坂という男の考えた走行ルートは、かなり入り組んでいて、少しでも気を抜けば誤った道を進みかねない。 それに加えて、棚橋の運転があやふやでどうにも頼りない。 指示を聞いているのかいないのか、勝手に別な道へ入ろうとしたり、逆にウインカーを出したりと、何度も怒鳴りつける必要があった。 そのたびに棚橋は、ひどくおびえた様子で盛んに頭を下げて謝るのだ。 棚橋がどういう人物なのかは、よく知らない。 小さな工場を持っていたらしいが、バブル崩壊のあおりを受けて倒産し、多額の借金を抱えたようだ。 その後、暴力団の運営する風俗店の店長を歴任し、ついでに何度か刑務所生活を送った後、教授の仕事を手伝うようになったと、誰かから聞いた。 か細い腕にか細い足は、見るからにうだつのあがらなそうな風貌だ。 梅里は裏社会で生きるようになって、こういう人たちをたくさん見てきた。 そのたび不憫には思うが、同情はしないことにしていた。 地図を確認しながら、棚橋の頼りない運転にも目を配る。 それは、予想以上に大変だった。 何度目かの急ブレーキで、梅里は業を煮やし、棚橋に運転を代わるように迫った。
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