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体勢ごと回すようにして、周辺を確認する。
散在するガラスの破片。
体にまとわりつく木の葉。
背後には、折れた木の枝が、獣道を作っていた。
どうやら、まだ生きているらしい。
それを確認すると、安堵のため息を漏らす暇もなく、衝突してきたSUVのことが頭をよぎった。
あの車は、明らかに衝突してきた。
偶然の事故ではない。
だとしたら、この車がどういう車かを知っていたに違いない。
つまり、あの車の運転手は、ドラッグを奪うことが目的なのだ。
見上げると、まだ崖を下りてくる人の姿はない。
気を失っていたのは、ほんの短い間だったのだろう。
車で衝突して転落させるなんて、かなり暴力的な手段を使う奴だ。
見つかったら何をされるかわかったもんじゃない。
梅里は、慌てて体勢を入れ替えると、首の痛みを堪えながら、後部座席の左ドアを蹴り上げた。
わずかに開いた隙間を体でこじ開けるようにして、車外へと身を乗り出した。
岩の転がる地面へしたたか背中を打ち付けたが、車を出ることができた。
痛む首筋をかばいつつ、芋虫のようにはいずりながら、丈のある草むらの中へ身を隠す。
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