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車体の陰になって、何をしているのかは見えない。 だが、地面を引きずる音で、棚橋の体を車から引きずり出したことがわかった。 微かにうめき声のような音も聞こえた。 棚橋は生きているのだ。 梅里は、そのときになって気づく。 衝突した四駆の中には、何人乗っていたのだろうか。 ひとりが棚橋を引きずっている。 もうひとりいたとして、今まさに崖を下りてくる最中だったならば、万事休すだ。 草むらの中から、首をもたげる梅里の姿が丸見えのはずだった。 はっと息を呑み、頭上を振り向いた。 首筋に激痛が走る。 思わず声を出しそうになって、口を押さえた。 幸運なことに、頭上には誰もいなかった。 崖を下りてくる者はいない。 では、相手はひとりか。 梅里は、ゆっくりと体を起こした。 割れた車の窓越しに、棚橋の姿が見えた。 顔面を真っ赤に血で染め、細い手足はだらしなく伸びたまま、引きずられている。 引きずっているのは、若い男だ。
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