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梅里は硬直した。
跳躍の準備をして張り詰めた手足の筋肉を、一斉に止めた。
拳銃を持っているなんて、まったく考えもしなかった。
危なかった。
もし、勢いに任せて飛び出していれば、今頃は銃弾の的にされていただろう。
草むらの中に身を沈めて、呼吸を整えた。
「躊躇してはいけない」
男の声が聞こえた。
微かに聞こえるうめき声。
棚橋が殺される。
目の前で。
胃の辺りがきりりと痛んだ。
この状況だとはいえ、目前で人が殺されるのを見逃していいものだろうか。
頭の中で善悪が駆け巡る。
正義感と良心が暴れだす。
梅里は、それらを論理で押し込めた。
何かを成し遂げるためには、必要な犠牲もあるんだ。
男のつぶやき声が聞こえた。
「自分が生きるために誰かを犠牲にすることを、躊躇してはいけない」
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