246人が本棚に入れています
本棚に追加
名も知らない男がストーカーだと、俺が気づいたのはここ最近の話だ。一二週間辺りじゃないだろうか。
多分、男の方もストーカーになりたてだろう。しかも、初めての相手が俺。この言い方は少し気持ち悪いが、明らかに男はストーカー行為に慣れていない感がする。いや、男は隠れる気も、隠す気もないのかもしれない。
今のところ、店にしか顔を見せず、家にまでついてくる様子はないから安心しているが。
チラリと時計を見た。時刻はちょうど十一時半。田辺さんも俺と同じように時計を確認していた。
店の前の男を見直すと、男も右手首につけている腕時計を見て時間を確認していた。男は落ち込んだように眉を下げると、俺に振り返った。
バチッと目が合った。男は俺と目が合うとは思っていなかったのか目を見開いて驚いた様子をしていたが、途端に顔を綻ばせて嬉しそうに笑った。本当に幸せそうな顔をして俺に向かって大きく手を振ると、店から立ち去った。
最初のコメントを投稿しよう!