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男はいつも十一時半には店を去っていく。仕事だろう。深夜近くに終わる仕事で、疲れているだろうにわざわざこの店に顔を出す。
名も知らない男、背丈は俺より低く、顔はかなりの童顔だ。
初めは中高生だと思っていたくらいだ。だから俺もあまり警戒していなかった、好かれちゃったなあ、とお気楽に済ませていた。だが、男がスーツ姿で、店に一度来たことがあった。それを見て、まさかの社会人かよ、と衝撃だった。
「あいつ、何の仕事してんだろうなあ」
「さあ?」
不意に田辺さんに言われて言葉に、適当に返した。
まあ、気にならない訳ではない。毎日じゃないだろうが昼出勤で、深夜に帰る仕事。更にこの辺りに仕事場があるのだろう。じゃなきゃ、わざわざ仕事帰りに店に寄ってかないだろう。
「あの、すみませーん」
「はい」
客の声に考え事を中断した。
まあ、男が何の仕事をしているかなんて俺には関係ないことだ。俺は俺の仕事をするだけだ。
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