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「できるよ。萌ちゃんと蒼司くんは特別だから」
それは天使か悪魔か。
子供の無邪気さの前には、どちらにしろ紙一重に差に思えた。
私が黙っていると、彼はにっこりと笑った。
そして念を押すように口を開く。
「できるよ」
赤い絵。
赤い絵。
赤い絵。
少女は――私は、もう赤い色しか認識できなくなってしまった紙屑を見つめていた。
地面にこぼれたそれを無言で拾い集めなんとなく賽銭箱の中に入れた。供養という具体的な方法を、そのくらいしか思いつけなかった。
冬の風に流されて、赤い破片は血のように暗い闇の中に落ちていった。
そして呆然と賽銭箱の前に座っていた。
悲しいのか。
嬉しいのか。
怒っているのか。
自分の感情がよく分からないまま、呆然と、月の隠れてしまった冷たい夜空を見上げていた。
空からは雪が降ってきた。
そして、石段から赤い人影が現れた。
赤い人。
赤い人。
赤い人。
少女は――私は、涙でもう赤い色しか認識できなくなってしまった人影を見つめていた。
………………。
…………。
……。
『それじゃあ』
そう言って、少年は神社に戻ると走り去ってしまった。
(いったいアレはなんなのだろう?)
病院の待合室で、私は喧騒を知覚することなく、呆然となにも見ていなかった。
少年は神社の縁の下にいた。
おかしな服を着ていたが、なぜか、誰もが――私も含めてそれを気にしなかった。
そして一緒に財布を探してくれた。
バスに乗った。
ラムネを飲んだ。
そしてプレゼントをくれた……。
3時間ほど会話をしていたのに、なぜか、その姿を覚えていない。
どんな顔をしていたとか、どのくらいの年だとか、……なぜか、まるで空気のように記憶の中にはその姿が止められていない。
サンタクロース?
馬鹿馬鹿しいが、そうとしか思えない。
だが、やはり馬鹿馬鹿しい。
「どうした萌?」
「え?」
驚いて顔を上げると、兄様が目の前に立っていた。
そして、耳が痛くなるほど、世界には音が溢れていた。
「兄様……出歩いて宜しいのですか?」
「あ、いや、ちょっと暇で」
「暇で私服で、どこに行こうとしているのです?」
にっこりと微笑むと、脱走犯は苦笑いを浮かべて隣の椅子に腰をかけた。
「いや、ちょっとひまわりを見に」
「ひまわり?」
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