第1章

13/15
前へ
/15ページ
次へ
 シンシンと音もなく、絶えず振り続ける雪の中で、真っ赤な衣装をまとった兄様が笑っていた。  「ああ、これ? サンタクロース」  「サンタさん……」  「驚かせようと思ってたんだけど、萌が寝床にいなくて僕が驚いた」  袖をつまんで微笑む。  「ごめんな……黙ってて」  「ううん」  「神社の真ん中でメリークリスマス」  可笑しかった。  だから笑った。兄様もお腹を抱えて小さく笑っていた。  そしてひとしきり笑い続けると、サンタさんが地面から紙切れを拾い上げる。  「あの絵、破いちゃったのか?」  「あ……うん」  「そうか」  兄様はちょっと寂しそうに言うと、私の行動を知っていたかのように、その紙切れを賽銭箱の中にいれた。  ――ガラン――ガララン――  「ちょっと野暮ったいけど」  言って、鐘を鳴らす。  冬の夜。  クリスマスの夜。  兄様が呟いた。  「あのサンタクロースの絵、破いちゃったのか」  ………………。  …………。  ……。  「サンタッ!」  私は大声で怒鳴った。  人が居るとか居ないとか関係なく、とても頭にきていたのだ。  「出てきなさい! 兄様になにをしたの!?」  『なにをしたって……』  困っている声がした。  「出てきなさい!」  『嫌だよ……萌ちゃん怒ってるもん……それに』  「いいから出てきなさい!」  私は地面を指さして怒鳴る。  ジャリ――と、乾いた石と砂が鳴る。  『それに……もう出てきてるんだよ僕』  「……どこに」  『賽銭箱に座ってる』  顔を向けると、確かに、そこからはぁ、というため息の声がした。  『もう時間だ。彼女達の集めた力をちょっと借りただけだから、あんまり保たないね……』  「彼女?」  『萌ちゃんが気にすることないよ。僕たちには関係ないお話しだから』  「とにかく、兄様を元に戻して!」  『どうして?』  とても純粋な疑問の声だった。  カラカラ――と鐘が鳴る。  『どうして怒ってるの? 萌ちゃんの願いは叶うよ。もう我慢しなくてもいいんだよ?』  「私は……」  カラカラ――と鐘が鳴る。  『蒼司くんと萌ちゃんが、ずっとずっと仲良く暮らしていければ僕も幸せなんだ』  「私は……」  カラカラ――と鐘が鳴る。  カラカラ――と鐘が鳴る。  カラカラ――と鐘が鳴る。  「私はあんな兄様は嫌い!!」
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加