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シンシンと音もなく、絶えず振り続ける雪の中で、真っ赤な衣装をまとった兄様が笑っていた。
「ああ、これ? サンタクロース」
「サンタさん……」
「驚かせようと思ってたんだけど、萌が寝床にいなくて僕が驚いた」
袖をつまんで微笑む。
「ごめんな……黙ってて」
「ううん」
「神社の真ん中でメリークリスマス」
可笑しかった。
だから笑った。兄様もお腹を抱えて小さく笑っていた。
そしてひとしきり笑い続けると、サンタさんが地面から紙切れを拾い上げる。
「あの絵、破いちゃったのか?」
「あ……うん」
「そうか」
兄様はちょっと寂しそうに言うと、私の行動を知っていたかのように、その紙切れを賽銭箱の中にいれた。
――ガラン――ガララン――
「ちょっと野暮ったいけど」
言って、鐘を鳴らす。
冬の夜。
クリスマスの夜。
兄様が呟いた。
「あのサンタクロースの絵、破いちゃったのか」
………………。
…………。
……。
「サンタッ!」
私は大声で怒鳴った。
人が居るとか居ないとか関係なく、とても頭にきていたのだ。
「出てきなさい! 兄様になにをしたの!?」
『なにをしたって……』
困っている声がした。
「出てきなさい!」
『嫌だよ……萌ちゃん怒ってるもん……それに』
「いいから出てきなさい!」
私は地面を指さして怒鳴る。
ジャリ――と、乾いた石と砂が鳴る。
『それに……もう出てきてるんだよ僕』
「……どこに」
『賽銭箱に座ってる』
顔を向けると、確かに、そこからはぁ、というため息の声がした。
『もう時間だ。彼女達の集めた力をちょっと借りただけだから、あんまり保たないね……』
「彼女?」
『萌ちゃんが気にすることないよ。僕たちには関係ないお話しだから』
「とにかく、兄様を元に戻して!」
『どうして?』
とても純粋な疑問の声だった。
カラカラ――と鐘が鳴る。
『どうして怒ってるの? 萌ちゃんの願いは叶うよ。もう我慢しなくてもいいんだよ?』
「私は……」
カラカラ――と鐘が鳴る。
『蒼司くんと萌ちゃんが、ずっとずっと仲良く暮らしていければ僕も幸せなんだ』
「私は……」
カラカラ――と鐘が鳴る。
カラカラ――と鐘が鳴る。
カラカラ――と鐘が鳴る。
「私はあんな兄様は嫌い!!」
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