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私のポケットにビー玉がはいっていて、見つめている手の中には1万円札札があった。
でも、それだけだった。
「サンタクロースねぇ」
この暑い太陽の下で……。
やっぱり白昼夢でも見ていたのだろうか?
そんななずはないと分かっていても、もう、彼の声すら覚えていない。
私はビー玉を太陽にかざした。
それはもう、緑色ではなく、白く白く輝くだけだった。
「…………ん? なっ!?」
ふと、遠くで兄様と白河さやかが並んで立っていた。
あの怪我で、本当に病院を抜け出したのだ!
「まったくなにやってるの……」
頭を抱えそうになって、ふと、手を止めた。
そして背筋を伸ばしてニヤリと笑ってやる。
残っていた。
この心には彼の証が残っていた。
ブリキのロボットだって、心を手に入れた。
それは形があるものではないのだ。
――勇気を出して。
「兄様!」
青い空に、黄色い声が木霊した。
ぎょっ、と兄様が振り返り、おてんこ娘が目を丸くしてから微笑んでいた。
そして逃げる。
二人とも逃げてしまう。
だから追いかけよう。
なんだか走れないらしく、ひょこひょこ、と歩いている背中を目指した。
さて、その背中に飛び込むか、怪我の心配をして上げるか……。
私はわずかな制限時間の中で、その2つの選択肢の結果を――どうなるか分からない未来を、ひどく楽しんでいた。
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