第1章

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 また、ずばずばと痛いところを平然とつっこんでくる。  「子供は大好きですけど、冗談でも、兄様とおてんこ娘の子供だなんて言う子は知りません!」  「……ごめんなさい」  少年はうなだれてしまう。  まったく縁起でもない。  再び歩き出すと、今度は足音もついてこなかった。  ただ、ひしひし、背中に視線を感じる。  「あぁ、もう!」  3秒も待たず方向転換して少年の元に戻る。  「……本当になんの用なのあなたは?」  「あ、やっぱり萌ちゃんはやさしいなぁ。そんな萌ちゃんにプレゼントを上げようと思って!」  犬なら尻尾を振ってそうね、兄様なら私の裸を見て逃げていくくらいの勢いで、少年がえへへ、と笑っている。  「プレゼント?」  「ねぇ、なにが欲しい? なんでも僕が出せる物なら大丈夫だよ」  「そう言うのはなんでもじゃない気がしますけど……なんでも」  ついつい考えてしまう。  今欲しい物と言ったら、やはりお金だろうか?  『お金ちょうだい』  『うん、いいよ。はい全財産の100円』  『ありがとう♪』  『えへへへへ』  「……はぁ」  かつあげと何の違いがあるのか。そもそも、欲しいだけの金額を差し出されても受け取れまい。  「特にありません」  「えぇ!?」  少年がオーバーリアクションに驚く。  「なにもないの? 何か無いの? なんでもいいんだよ?」  「ええ。なんにも」  「嘘だ」  少年が突然目を細めた。  「萌ちゃん欲しい物があるはずだよ」  「? な、ないよ」  「そんなことない……ずっと欲しがっている物があるじゃないか」  なぜだろう。  少年が必死になって私のことを見つめている。  真剣に私のことを思ってくれているのが分かる。  欲しい物……。  「なんのことなの?」  「言えない。僕からは言えないんだ。欲しい物を強制することは出来ないから」  「?」  言わないではなく、言えない。それはつまり、この少年が、やはり私のことを知っていることになるのか?  「ねぇ、意地悪してる? パンツのことで怒ってるの? 名前で怒ってるの?」  「……別に意地悪しれるんじゃないの。ただ正直困ってる」  私は、はじめて真剣に、この少年と向き合った。  彼の目はやはり赤い。  赤い瞳が私の姿を反射している。  「あなたは誰?」  「僕は上代三田だよ」  「……分かりました」
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