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また、ずばずばと痛いところを平然とつっこんでくる。
「子供は大好きですけど、冗談でも、兄様とおてんこ娘の子供だなんて言う子は知りません!」
「……ごめんなさい」
少年はうなだれてしまう。
まったく縁起でもない。
再び歩き出すと、今度は足音もついてこなかった。
ただ、ひしひし、背中に視線を感じる。
「あぁ、もう!」
3秒も待たず方向転換して少年の元に戻る。
「……本当になんの用なのあなたは?」
「あ、やっぱり萌ちゃんはやさしいなぁ。そんな萌ちゃんにプレゼントを上げようと思って!」
犬なら尻尾を振ってそうね、兄様なら私の裸を見て逃げていくくらいの勢いで、少年がえへへ、と笑っている。
「プレゼント?」
「ねぇ、なにが欲しい? なんでも僕が出せる物なら大丈夫だよ」
「そう言うのはなんでもじゃない気がしますけど……なんでも」
ついつい考えてしまう。
今欲しい物と言ったら、やはりお金だろうか?
『お金ちょうだい』
『うん、いいよ。はい全財産の100円』
『ありがとう♪』
『えへへへへ』
「……はぁ」
かつあげと何の違いがあるのか。そもそも、欲しいだけの金額を差し出されても受け取れまい。
「特にありません」
「えぇ!?」
少年がオーバーリアクションに驚く。
「なにもないの? 何か無いの? なんでもいいんだよ?」
「ええ。なんにも」
「嘘だ」
少年が突然目を細めた。
「萌ちゃん欲しい物があるはずだよ」
「? な、ないよ」
「そんなことない……ずっと欲しがっている物があるじゃないか」
なぜだろう。
少年が必死になって私のことを見つめている。
真剣に私のことを思ってくれているのが分かる。
欲しい物……。
「なんのことなの?」
「言えない。僕からは言えないんだ。欲しい物を強制することは出来ないから」
「?」
言わないではなく、言えない。それはつまり、この少年が、やはり私のことを知っていることになるのか?
「ねぇ、意地悪してる? パンツのことで怒ってるの? 名前で怒ってるの?」
「……別に意地悪しれるんじゃないの。ただ正直困ってる」
私は、はじめて真剣に、この少年と向き合った。
彼の目はやはり赤い。
赤い瞳が私の姿を反射している。
「あなたは誰?」
「僕は上代三田だよ」
「……分かりました」
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