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嘘をついていない。そう仮定しようと思った。
そこを信じないと先に進めないし、人を信じない者は相応の報いを受ける――そう兄様に言われていたから……。
この場合は、信じる私が愚かなのかもしれないけれど。
私は腰に手を当てて頷く。
「名前の件に関しては譲れませんが、分かりました。では、私の欲しい物を言います」
「うん」
「お財布」
「財布?」
少年が目を丸くする。
「財布? そんなんでいいの?」
繰り返す。
「はい。大切なお財布をなくしたので」
「……分かったよ」
少年は袖に手をいれると、うんしょ、とかけ声を出して何かを引っ張りだした。
「はい、お財布」
それは、見るからに高そうな、成人男性向けの黒光りする財布だった。
「……それ、あなたの?」
「違うよ。これは萌ちゃんのだよ」
少年は何か不服そうに呟く。
「あぁ、ごめんなさい」
私はしっかりと頭を下げた。
「私が欲しいのは、どこかで落とした財布のことなの」
「あ~、良かった。こんな財布がプレゼントだなんて僕も嫌だからね」
少年は笑って、袖に財布を戻す。
「でも、そうか……なるほどね」
「? なにが?」
「いや、いいんだ」
彼は満足げに頷いている。
「それじゃあ、一緒に財布を探して上げるよ……その間に、本当に欲しい物を考えておいてね」
ジングルベルを口笛で吹きながら、少年は道の草をかきわけながら歩き出す。
なに一体?
日焼けがきになる暑い暑い太陽の下、私は呆然と立ちつくしていた。
ジングルベル、ジングルベル、鈴が鳴る――。
クリスマスの歌を思い浮かべながら、私は軽い立ちくらみを覚えていた。
青い太陽。
白い風。
青い雲。
少女は狭くなった冬の空を見上げていた。
私は意外と近くで、そんな少女を――2人の少年少女の姿を見つめることになった。
彼女の名前は白河さやかと言うらしい。
はっきり言おう。
私には彼女が眩しかった。
冬にして、夏の太陽のように、ひまわりのように笑う少女が羨ましかった。
兄様と絵の話をして、共通の趣味の話を対等に――時の上にいる人間として語っていた。
2人に交ざって、私も一緒に絵を描いたことがある。
下手くそだった。
とてもとても下手くそだった。
けれど、その絵を見たさやかは微笑んでくれた。
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