崩れ然る固定観念

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  こんな気色悪いのが 生の営みとか、馬鹿げている。 俺がしたいのは、 こんなことじゃない。 むしろ逆だ。 苦しげにのけぞりながら 無防備に首筋をさらけ出す 女のそれに手を伸ばして、 締めるなり砕くなりできたら どれほど楽だろうか。 “──たくちゃん、歌って” 鈴が鳴るように笑う 志緒の声が、 頭を過ぎる。 ──なあ。 こんなことしかできない俺を、 お前は許してくれるかな。 なんでだろう。 なんで俺、生きてるんだろう。 なんで、全部気持ち悪いんだろう。 ……お前以外。 何かを請うように伸ばした手は、 冷たい壁にぺたりと吸い込まれた。 .
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