崩れ然る固定観念

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  「自分のことを そんなふうに言うな」 「いいや、藤堂さんだって 判ってるから、 こうして俺に構うんだろ。 見てないとどこまで 突き破って転がってくか、 判んねえから」 「……」 藤堂さんのその沈黙が 肯定なのか否定なのか、 全然判らない。 志緒の他に唯一、 俺が読めない相手だ。 「どれだけ教え込まれても、 俺、倫理感とか意味判らねえし。 人を玩具にしても、 罪悪感ひとつ湧いて来ねえ。 そのくせ、他人の悪意とか 汚らしい欲を見ちゃ、傷付く。 ……俺のせいで傷付いた人間の姿にも」 「拓海」 「意味判んねえよ。 これじゃあただの 気まぐれ野郎だ。 自分でもどうしていいか判らねえ」 静まり返った夜に、 俺と藤堂さんの息遣いだけが響いた。 .
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