崩れ然る固定観念

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  「こんな正体の判らない ケダモノを、 あいつの中に突っ込むとか。 ……考えただけでぞっとするよ」 もうすぐ、鈴虫が鳴き始める季節。 耳がじんと痛くなる 静けさの中に、 溶けてなくなってしまいたくなる。 「……お前は、知らないだけだよ」 「何を」 「愛して、愛される感触をだよ。 志緒ちゃんはそこらの こまっしゃくれた女の子とは違う。 あの娘はちゃんと 人の痛みが判る子だ。 だからお前は、惹かれるんだろう」 「……は。 藤堂さん、いい歳して何を」 「莫迦。 いい歳だからこそ、 ものの価値が判るんだ。 手に入れ損ねたものを あとで想った時のやるせなさを、 俺は知り尽くしてるからな」 .
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