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暗闇だった。なにもない場所に私は生まれた。身体と呼べるものはなく、ただ意識のみがそこにあった。何をするでもなく私はそこに存在し続け、そしてある日、私の創造主と呼ぶべき者か身体を与え、目の冴える蛇として私は、このセカイに生まれた。
終わらないセカイのため、私は生み出されたのだ。暗闇から出てきた私は長い伸びる身体を揺らすように、外の世界を見た。眩しかった。目が焼けてしまうのではないかいうほどに眩しくて、綺麗なセカイがそこにあった。
私も、あのセカイの一員になりたい。あのセカイの人間として生きたい。そう願うようになった。どんな手段を使ってでも、計画を進め、そそのかし、貶めて、ちゃくちゃくと目的のために進めていく。早くあのセカイに、生身の人間として生まれたい。そんなある日のことだった。
「こんにちは、目の冴える蛇さん」
私に語りかけてくる、少女が現れたのは、赤いマフラーを巻いた少女は、私を見つめてニコニコと笑っていた。幸福を絵に描いたような少女だが、私から見ればとても脆い、ほんの少しのことで瓦解してしまうだろう。人間というやつは、誰だってそうだ。叶うことない夢を見る。
「あれ。聞こえなかった
のかな? おーい」
「なんの用だ」
私は答える。ここにいるということは、彼女もカゲロウデイズに関わった人間なのだろう。私には人間の区別など、どうでもいいが、割と自由に動き回るところは、あきらかに異質だった。
「せっかくこっちに来たんだもん、やっぱり挨拶しておこうと思って、私はアヤノ。よろしくね。目の冴える蛇さん。略してメーさん」
「おかしな、呼び名をつけるな」
「えーだって、目の冴える蛇って長くない? だから、メーさん、それとももっと違うのがよかった?」
アヤノと名乗る少女は相変わらずニコニコと笑いながら遠慮なく踏み込んでくる。私には名前はないし、目の冴える蛇も創造主が勝手に呼んでいるだけで、名前ではないが、メーさんよりかはマシだった。
「くだらない。呼び名などどうでもいい」
「そうかなー。私はあなたが名前をほしがってるように見えるけど? 誰かに認めてもらいたくて、ここにいるよ。寂しいよって言ってるように思うけどな」
「…………馬鹿げた妄想だ」
アヤノの首に巻きつき、殺すことは容易だ。なのに、できなかった。ニコニコと微笑むアヤノを傷つけることが私にはできない。
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