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「『呑龍』の強制催眠で全身を麻痺(まひ)させられていても、身体(からだ)の一部だけなら訓練しだいで動かせるんじゃないか。とくに予備動作がまったくないような手足の末端ならね。ぼくもテルと同じことを考えていた。ほら、熱いコップをもったとき、自分で離そうと思う前にコップを落しているだろ。あれは脳の指令じゃない。信号は背骨までしかいっていないんだ。脊髄(せきずい)反射だからね」  タツオは言葉もなかった。自分にはそこまで考え抜いて戦略を立てる力はない。 「『呑龍』は脳内の生体クロックを遅くできても、生命維持に関わるような脊髄や末梢(まっしょう)神経までは支配できないんじゃないか。ぼくはそういう仮説を立て、本選に臨んでいた」  そうだったのか、ジョージとテルはそんなところに目をつけていたのか。タツオはひたすら「止水(しすい)」を磨くだけで、「呑龍」への対応策をなにひとつ考えていなかった。
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