3 それは繋がる手に導かれる

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「えっと、どうぞ」 「あぁ、おじゃまします」 靴を脱いで家に上がる。 目の前のリビングにつながるドアは開け放たれていて、その奥に広がる景色に、 「……懐かしいな」 思わず呟いた。 リビングの入口、そっと手を伸ばす。 そこには“見えない壁”はなく、この手は突き抜けた。 一歩足を踏み入れる。 この部屋の全部が懐かしく、やはり俺はこの部屋にいたんだと今ちゃんと確信が持てた。 「コーヒーでも、入れるね」 そわそわとキッチンへ向かう奏を意識しつつ、俺はベランダに続く窓へ向かいレースカーテンを少し開ける。 そこから見える景色もやはり懐かしくて。 なぜかほっとした。 ソファに座り部屋をぐるりと見渡して、あの頃となにも変わらない部屋に少し笑う。 キッチンへ目を向け、その後ろ姿は、今手を伸ばし触れようと思えば触れられる。 不意に振り返った奏が目を見開き口元を手で覆った。 「奏?」 立ち上り傍により覗き込んだ先、潤む目元に息をのむ。 「秀、」 「っ、うん?」 「秀、お帰り」 その言葉はあっという間に俺の思考回路を真っ白にさせ、気がつけば奏を抱きしめていた。
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