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「えっと、どうぞ」
「あぁ、おじゃまします」
靴を脱いで家に上がる。
目の前のリビングにつながるドアは開け放たれていて、その奥に広がる景色に、
「……懐かしいな」
思わず呟いた。
リビングの入口、そっと手を伸ばす。
そこには“見えない壁”はなく、この手は突き抜けた。
一歩足を踏み入れる。
この部屋の全部が懐かしく、やはり俺はこの部屋にいたんだと今ちゃんと確信が持てた。
「コーヒーでも、入れるね」
そわそわとキッチンへ向かう奏を意識しつつ、俺はベランダに続く窓へ向かいレースカーテンを少し開ける。
そこから見える景色もやはり懐かしくて。
なぜかほっとした。
ソファに座り部屋をぐるりと見渡して、あの頃となにも変わらない部屋に少し笑う。
キッチンへ目を向け、その後ろ姿は、今手を伸ばし触れようと思えば触れられる。
不意に振り返った奏が目を見開き口元を手で覆った。
「奏?」
立ち上り傍により覗き込んだ先、潤む目元に息をのむ。
「秀、」
「っ、うん?」
「秀、お帰り」
その言葉はあっという間に俺の思考回路を真っ白にさせ、気がつけば奏を抱きしめていた。
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