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<kanade>
彼をウチに呼ぶという事は、今まで思い出になっていたいろんな事が、今度は現実になるという事。
リビングに入るその一歩、彼は手を伸ばし何かを確認する様にした。
……あ、もしかして“見えない壁”?
あの頃確実に合ったらしいそれは今はやはり無くて。
秀は僅かに息を吸い、少し思いきるように一歩踏み出した。
私はなんだか彼の姿を見ていられなくて、コーヒー入れる理由にリビングに背を向ける。
それでも、気になる姿を見たいとゆっくり振り返って、
っ、
息をのんだ。
あの頃の思い出と重なる光景。
ソファに座り、長い脚を優雅に組む。
私を見る顔の角度とか、優しく微笑む表情とか。
全部、全部、思い出と重なって、
目に、涙がにじむ。
傍に寄ってくれる彼に、
“あの時”言って彼を送り出した私が言いたい言葉は。
「秀、お帰り」
刹那、抱きしめられ、体に回る腕に力が入ったのがわかった。
この部屋で出来なかった事。
本当はこうなる事を想い、それに蓋をしていた頃の事。
今、彼はその手で私に触れて、
こうして抱きしめてくれるんだ。
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