4 それはどれも君との初めて

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<kanade> 彼をウチに呼ぶという事は、今まで思い出になっていたいろんな事が、今度は現実になるという事。 リビングに入るその一歩、彼は手を伸ばし何かを確認する様にした。 ……あ、もしかして“見えない壁”? あの頃確実に合ったらしいそれは今はやはり無くて。 秀は僅かに息を吸い、少し思いきるように一歩踏み出した。 私はなんだか彼の姿を見ていられなくて、コーヒー入れる理由にリビングに背を向ける。 それでも、気になる姿を見たいとゆっくり振り返って、 っ、 息をのんだ。 あの頃の思い出と重なる光景。 ソファに座り、長い脚を優雅に組む。 私を見る顔の角度とか、優しく微笑む表情とか。 全部、全部、思い出と重なって、 目に、涙がにじむ。 傍に寄ってくれる彼に、 “あの時”言って彼を送り出した私が言いたい言葉は。 「秀、お帰り」 刹那、抱きしめられ、体に回る腕に力が入ったのがわかった。 この部屋で出来なかった事。 本当はこうなる事を想い、それに蓋をしていた頃の事。 今、彼はその手で私に触れて、 こうして抱きしめてくれるんだ。
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