4 それはどれも君との初めて

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それは、私も同じ。 彼が微笑んで私を見るだけで嬉しくて。 手をつないでくれるのが嬉しくて。 歩くスピードとか、車道側を歩いてくれるとか、 人とすれ違う時に彼の方へ寄せてくれる事とか。 全部全部、嬉しすぎて、胸がいっぱいで、苦しいんだ。 「かなで」 「……ん?」 苦しすぎて掠れる声にお互い僅かに微笑んで。 彼は一度目を伏せると私を見て、 また少し困ったように微笑んだ。 「抱きしめたい」 それを拒む言葉なんて欠片もない。 私はただゆっくり頷いて、彼へと体を傾ける。 ふわりと回った腕は、さっきより柔らかく、 ぎゅっと言うよりは、手繰るように。 「秀?」 「……あぁ」 私の声は、彼の胸元へ籠り、 彼の返事は私の肩口で響く。 「なんか、変だね?」 「……なにがだ?」 「あのね、すっごくドキドキいってるのに」 「あぁ、」 「でも、すっごく安心するんだもん」 目を伏せて力を抜けば、背中に回っていた腕が離れて、その手は私の頭を撫でる。 「奇遇だな」 「ん?」 「俺も同じだ」 抱きしめ合ったまま、2人くすくすと笑って。 私はほっと息を吐いた。
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