4 それはどれも君との初めて

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「あー……くくっ、」 「ん?」 背中にまわした腕を解き。 コツン、ぶつけられたおでこに目を伏せて。 離れる仕草はどちらともなく後ろ髪がひかれるように。 彼はまたソファの背もたれに腕をのせ、私の髪を解く。 そして反対の手はテーブルのカップを持ち上げて、くつくつと肩を揺らした。 「折角奏が入れてくれた初めてのコーヒーがぬるくなっちまったな」 そう言って一口含む。 「あっ、飲まなくても……」 「ん?」 「淹れなおすから、待ってて?」 受けとろうと手を伸ばせば、この手は彼の手にきゅっと掴まれた。 「いや、いい」 「だって、変にぬるいと美味しくないでしょ?」 「いいや」 ふわり微笑んだ彼は目を細めて、私の手をつかむ力をきゅっと強めた。 「奏から貰う初めては美味くないわけねぇだろ?」 「っ、」 からかってるんだか本心なのか。 きっと、それはどちらとも。 優しい微笑みの瞳の奥は少し悪戯に光ってる。 彼の言葉になんだか恥ずかしくて、ぱちぱち瞬きが多くなってしまう。 「それに、」 「……?」 「今は離れたくねぇんだ」 掴まれた手、彼の手が私の軽く握った手を開くようにして。 そして手の甲を親指でゆるゆると撫でるから。 やっぱり私は真っ赤になって。 あぁ、どうしよう。 目を伏せた。
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