5 それは初めての幸せ

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「……大丈夫か?」 「ん……」 「悪い、止められなかった」 言いわけのように洩らせば顔を上げた奏は、頬を染めて照れくさそうに、だがふわりと微笑んだ。 「ううん……嬉しかった、から」 ……参った。 好きっつーのはこういうことか。 いや。 既に“好き”という感情以上のものが膨らんで、 ―――『 』、 浮かんだ言葉に、妙に納得がいった。 「秀、」 「っ、あぁ」 不意にかけられた声は目の前から。 あぁ、奏を見つめながら考え事をしていたらしい。 困ったように眉を下げ、首をかしげている。 頭にぽんと手を置けば、くすくすと笑う声にまたこの胸はくすぐられて。 その揺れる体を引き寄せ、壊さないようにそっと抱きしめた。 「どきどき……聞こえてる?」 「うん?……聞こえてはいるが、」 少し早い鼓動は一体どっちのものなのか。 「俺の心音もかなりのもんだから、お互い相殺されてるだろ」 「ふふっ、そうだね」 体に響く心音と時計の針の音が重なり、漸く落ち着いてきた。 「あ、」 「うん?どうした?」 突然思い出したような声に少し体を離して覗き込む。 花のように微笑んだ奏はそのあと苦笑に変えて口を開いた。 「お腹、すいてきちゃった」
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