第1章

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立ち尽くす私に、しびれを切らした矢島君。私の横をスッと通り過ぎ、私の分の切符を購入した。 「行くよ」 手の中に押し付けられた切符。 「えっ」 ど、どうしよう、戸惑う私。 ――その時、鳴り響いた電子音。 ハッと音の方に視線が吸い寄せられたのは、私だけではなかった。 そして、もちろん、鳴っているのは私のではない。 私の携帯はまだ、電源が落とされたままだ、 矢島君のポケットから取り出された電話。 相手を確かめた矢島君は、驚きの表情を浮かべた。 「あっ、先輩だ……」 そう小さく呟いたのを、私は、確かに聞いた……。 「もしもし」 矢島君が電話に出ると、 「もしもし、菅沼だけど――」 コージの声が漏れて聞こえてきた。 私の心臓は更に早鐘をうつ。
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